正確には「UXデザイン力」ですけどね。
その昔、とある人にこんなことを言われたことがあって。
「おまえ(ら)は、毎日コンビニ行ったりするよな?人によっては"行き""帰り"の1日2回行くやつもいるよな。では、おまえ(ら)はコンビニのコンサルができるか。毎日使っていても"売り上げるためにはこうすべきです"と言えないのに、WebのプロであるおまえらはなぜたくさんWebを使わない。ぜんぜんだめだろう」
というのも、これを読んで。
とくにここに共感。
施設のパンフレットデザインを見せた際に言われた、『パンフレットが置かれる現場に行ったみた?』 が今でも忘れられない一言であり、UXの本質的な言葉だと思っています。
そう、現場に行くことはとても大事。実は僕もこのブログで何年か前にそれを書いてる。
現場に行くことはとても大事。Webサイトならそれはリアルのサービスを体験するということもそうだし、Webサイトを体験してみる=資料請求してみるというのも「現場体験」になりますね。
制作会社にいると、意外と結構「クライアントに言いづらい」っていう人がいるんですけど、言ってみると良いですよ。「ためしに資料請求してみても良いですか?」とか「店舗に行ってみても良いですか?」と。
たいていのクライアントはむしろ喜んでくれるし、そこで嫌な顔するクライアントは本気で成果を出すつもりが無い人が多いので、リトマス試験紙的な効果もある。だからやってみるといい(お客様に迷惑がかかる、とかで難色を示すクライアントもいるので一概には言えないです)。
じゃあ、現場に行くことを意識づければUXデザインの力がアップするかというと、僕はそうは思わない。
そんなわけで、うぇぶぎょうかいのむめいでぃれくたーのお時間です。
そんなに現場に行ってられねぇよ問題。
いや、いきゃあいいんですけどね。でもたとえば不動産系とか、はたまたビジネス系ツールとか、その都度購入してられないものもある。限界があるわけです。無論、疑似体験の場を作ることは可能だし、頼むこともできますけどね。
そもそも、現場に行けば何でもわかるのかという問題もある。
現場に行って、実際のユーザーの様子を見ればなんでもわかるか、アイディアが出てくるのか。そんなわけないですね。出ないよ、そんなの。自分目線だけだとわかりづらいかもしれないけど、幼稚園児が観察するのと秋元康さんが観察するのでは出てくるアイディアも雲泥の差でしょう。結局は当人の能力に左右されるのはゆるぎない事実。良いUXを設計するのは手法ではなくそれを駆使する人間ですから。
じゃあ、どうしたら上手く観察したり、そこから良いアイディアが出せるようになるのか。
答えは「現場に毎日行けばいい」。
行けねぇわ!!!
そう思った人、その通り。
毎日クライアントの店舗にお邪魔するわけにもいかないし。
でも、たとえば牛丼屋チェーンは「牛丼屋」というだけじゃなく「飲食店」であり「接客業」であり「チェーン展開ビジネス」でもある。牛丼屋ひとつ取ってもこれだけの顔がある。そして、僕らの生活にはそんなものがあふれています。コンビニは「販売業」であり「フランチャイズ展開ビジネス」であり、一方では「プライベートブランドの巣窟」でもある。
ここで、たとえば牛丼屋とコンビニは比較対象になるわけです。まったく違う業界だけど、フランチャイズやチェーン展開をしているというところは同じだし、アルバイトを主戦力として採用しているのも同じです。ただ、同じアルバイトでもオペレーションはだいぶ違うでしょうね。そもそも扱っている商品種数が全く違う。両者の違いは何なのか。結果として「接客」というアウトプットに出てくるものは何が変わるのか。
これは、立派な「現場」です。そして、僕らの生活にはその「現場」があふれています。ファミレス、居酒屋、アパレルショップ、カラオケボックス、ヘアサロン、書店などなど・・・もう無数にあります。公共交通機関だってその一つですね。
「クライアントの現場に毎日行く」ことはできないけど、「毎日を現場にする」ことはできるんですよ。
どうやって現場を見るか。
「仕事が恋人♪」みたいに「毎日が現場♪」と(若干アタマがおかしいことを)いったところで、毎日毎時毎分毎秒じーっとみてたってわからないし、逆にボーっとしてたってわからない。
じゃあどうしたらいいか。
その答えはこれだよなと思う。
「UXを学ぶことの本質的な意味とは、ツールや手法を覚えることではなく、「他者の気持ちや行動を具体的に想像できるようになること」と私は考えている」
そう。
UXデザイン手法のなかにそのヒントがたくさんあるんですよ。
ペルソナ、カスタマージャーニー、アクティビティシナリオ、デプスインタビュー、プロトタイピング、ウォークスルー・・・など手法はたっくさんある。そのどれも魅力的な手法だし、ちゃんと使えば効果も出ると思うけど、全く思考力のない人がこの手法を採用したからといっていきなり良いプロダクトができるわけじゃない。前述のとおり、結局考えるのは本人なんだから。
大事なのはこれらの手法から「それを日々の意識に落とし込むこと」だと思うんですよ。だって、デプスインタビューなんてまともにリクルーティングからはじめたら時間も金も膨大にかかりますよ。でもやってることはインタビューですから。友達や同僚と居酒屋にいったってできるし、むしろ相手は無防備な心理状態なわけで絶好のタイミングなんですよ。
とはいえペルソナつくることを毎日意識しても意味がない。
ペルソナというのは「仮想(≠架空)のユーザ像」だから、そもそも(毎日の)現場にいる時点で仮想ユーザなんか作る必要ないですしね。
かといって赤の他人に突然インタビューもできない。
じゃあどうすんねん、ということで結論を先に書いちゃう。
UXデザイン力を高めたいなら、日々「UXフロー」を意識して生活するのが良い。
UX系の言葉はそもそもの言葉の定義がブレまくっているのであまり使いたくないんだけど、要するに「行動を分解して定義する」っちゅうこと。
つまり、たとえばファミレスなら
店につく
↓
順番待ちの名前を書く
↓
名前を呼ばれる
↓
席に着く
↓
・・・
みたいに。
「店につく」時点でやるべきことと「席に着く」時点でやるべきことはぜんぜん違うわけです。店についたばかりなのに今日のおすすめメニューを言うべきではないし、やっと席に着いたときに名前を書かせるのも違う。
それぞれが逆なんだけど、でもどっちか一つをやってればお客さんが満足するわけではない。来店から退店までそれぞれのタイミングでニーズに応えないと満足した状態にはならない。↑のフローのそれぞれのステップで適切な対応をしないといけないわけですよ。
気が利く、という結論。
これは、いうなれば「気が利く」という言葉と置き換えてもいいかもしれない。いや、白状すると僕はそうやって指導されてきました。
ユーザーの問題解決の流れ(UXフロー)に対して、それぞれのタイミングに適したアプローチができるかどうか。それはたしかに「気が利く」と同質のものなんですよね。たとえばいま、おしぼりが必要なのか、わかりやすい記名シートが必要なのか。それは、相手がどのタイミングにいるのかによるわけで。
これができるようになるためには、相手の一挙手一投足を見逃さず、次の一手を想像し、その想像に対して適切な対応策を出す必要がある。
そのためにはいつでも「気を利かせる」ということを意識しなければならないし、普段から「気を利くとはどういうことなのか」を自分がたくさん体験しておかなければいけない。
カフェだって居酒屋だってホテルだって、そこに「気を利かせる」という体験がある。僕はつい癖で居酒屋やカラオケのタッチパネルのUIをチェックしてしまって「これいけてないねぇ」とか「このボタン、いいねぇ!」と言っていたら、同席している仲間に
「toksatoさんのそれはもはや通過儀礼」
って言われたことがありますw
べつにUIに限った話じゃないですね。
たとえばこんな話があります。
とある日、サラダバーが自動でついてくる飲食店に行ったことがあります。そこで、最初に店員さん聞かれました。
「当店のご利用ははじめてですか?」
僕は、いいえ、と答えました。
前述のサラダバーがすべてのセットについてくるということで、ちょっと特殊なんですね。だから、初来店のお客さんには注文方法を説明するんです。
僕の返答を聞いた店員さんはこう話しました。
「ご来店ありがとうございます。メニューに変更がございまして、これまでドリンクバーもセット内に入っておりましたが、このたび別メニューとなりました。ドリンクバーをお求めの場合には、追加でご注文をお願いいたします。それではご注文お決まりになりましたらボタンでお呼びくださいませ」
そう言って店員さんは去っていきました。
これを聞いて、おかしな対応だなぁと思いました。
お気づきの方も多いと思いますが、もともと価格に含まれていたサービスが(価格の変更なく)抜かれているわけです。これは、本来は来店客に対して失礼な方針転換です。実質的には値上げなわけだから。
値上げするなとは思わないし(究極的に言えばそんなものは店側の勝手だし)、それで気分を害した!ということではないんですよ。そりゃしょうがないし。経営的にもいろいろあったんでしょう。
僕がおかしな対応だと思ったのはこれです。
「当店のご利用ははじめてですか?」
つまり、わざわざこの店員さんは初めに「リピーターであること」を確認してるんですよ。初来店の人が質問した、というならわかるんだけどわざわざ「好んで再来店してくれた人」というのを確認したうえで、とくに謝罪ひとつなく「変わりました」で終わらせてしまう。
これは、UXフローを意識していれば防げることです。
そしてUXフローを意識して体験をしているから「わざわざリピーターであることを確認したのになぁ」と思えるわけです。それが無い人は「値上げするなんてひどいよね!」で終わってしまう。
これができていれば、この体験を覚えていれば仕事にもいきます。自分の仕事にもお客様はいるから。メールの文面ひとつとっても「いまどの温度感やスタンスでメッセージを送るべきなのか」というのは、相手と自分の文脈を理解し、気を利かせて言葉を選ぶ必要がある。いま、1センテンスでも謝罪を入れるべきなのか、入れないべきなのか。逆に言えば、これができてない人は日ごろからそういう観点で物事を見ていないからできないんだと思います。
一度、性格悪くなるフェーズがあるから気を付けて!(笑)
いまでもじゅうぶん悪いよと思ったあなたはその通りなので優しい目で見守ってあげてください(切実)
上記の飲食店の例を見ればもうわかるだろうけど、まあ、性格悪いよね(笑)細かいことを、人のあれやこれや粗さがししてるようなもんだもの。
実際、僕もこれをやりはじめてからの一時期、明らかに性格が悪くなってましたね。私生活にも取り入れるもんだから、当時付き合ってた彼女さんにも「いや、わかるけどさ・・・」って呆れられました(笑)
でも、それに気づいて改めればすぐになおります。
まあ、もともとそうじゃなかったんだからw
僕はよく勘違いされるんだけど、お店でクレームを出すことなんてほとんどないです。っていうかまともに出した記憶が無い。いや、あるんだけど、それはだいたい僕個人の話ではなく何人かで行ってたり、僕が幹事だったりしたときに「さすがにこれは立場的に言わないと怒られるな」っていうときですね。
性格が悪くならないようにするのは割と簡単で、以下のことをちゃんと自分のスタンスとして整理すればいいだけ(なんだけど、意外とできていない人も多い)。
- 良い/悪いの基準を持つこと
- それに腹を立てること
- それを表に出すこと
- それを本人に伝える(わかるように出す)こと
これらは、ぜんぶべつべつのことなんですよ。
UXデザイン力を高めるためにやるのは「良い/悪いの基準を持つこと」だけ。あとはいらない。いかに細かい目盛りを持てるかであって、腹が立つとか立たないとかはどうでもいいんですよ。
そしてさらにそれをわざわざ伝えたりするから性格の悪い人になっちゃう。サービスなんてものは値段相応だし、対応してくれる相手の能力にもよる。そのときの自分の感情なんかどうでも良くて、「こういうタイミングではこういうのがあるといいのにな」とか「あー、ここでこれが出てくるのか。わかってるなぁ」とか、そういうことをちゃんと積み重ねていくことが大事なんですよね。
そうやって日々を生きていれば、「気が利く」「気が利かない」なんてことを体験することは無数にあります。それをどう拾っていくか。たくさん体験をして、考えて、自分の仕事やアウトプットに盛り込んで行けば、自然とクオリティは上がっていくはずです。
UX手法を学んだりすることはとても大切なことだけど、そんなもん学んだってそもそも使う場をつくらないと話にならないし、そうそう毎回毎回フルでUX手法を採用できるわけでもない。
勝負は、毎日の体験で決まってるんだと思います。