笑顔を創りたいWebディレクターの日常

某事業会社勤務のWebディレクター。つまり「なかのひと」やってます。Web業界からひょんなことで専門学校の先生に。そしてまたWeb現場に戻ったWebディレクターのブログ。

Webディレクターは「案件のケツをもつ人」ではありません。

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こんばんちは、スーパー太っちょWebディレクターです。
スーパーは太っちょにかかります。

この話はね、Webディレクターってしんどいな〜と思ってたり辛くて病んじゃったりするひとと、あと多くのビジネスパーソンに読んでほしい。(幅広げすぎ)

いや、もしあなたがデザイナー、エンジニア、料理人、それはシェフ!、アイアンシェフ!、そしてアイアンじゃないシェフ!などなどの「職人」では無い人なら読んでほしい。そして人生をもっと楽に生きてほしい

今日はそういう話なんだけど、どうもWebディレクターというと、案件のケツを持つとか、最後はなんとかしなきゃいけない人、みたいに捉えられていることが多くて。

バカじゃねぇのか、おまえ。

って思ってる。

いやごめんなさい、失礼すぎる。

でもね、そうやって潰れていく人があまりに多くて、つらいんよ。かなしい。

そしてまた、Webディレクターっていう人にはどうも声のデカい暑苦しい人が多くて。いけ!やるんだ!最後までやりきってなんとかするのが俺たち私たちの仕事なんだ!責任感のない奴は去れ!みたいな人があまりに多い。多すぎるぐらい多い。

 

僕は2005年からWebディレクターをやっているので、もう17年目かな。

「Webディレクターなんて、そんな大した仕事じゃねぇよ」って言う人があまりに少ないので、僕が言おうと思う。

 

そんなわけで、うぇぶぎょうかいのむめいでぃれくたーのお時間です。

 

■目次

 



 

そもそも「案件のケツを持つ」とはなんぞや

なんぞや?

改めて問われるとわからなくなる・・・(笑)

いやまあ、責任を持つとか、「なんとかする」っちゅうことでしょう。

僕はね、「なんとかする」にしても、「責任を持つ」にしても、無理だと思ってるんですよ。できるわけがない。

 

いや、まあ「責任を持つ」はできるかもしれない。
しかし責任を持つというのは、たとえばそれで誰かに不利益がおきたとき、その賠償を一手に引き受けるわけじゃないですか。

会社員にそんなのは無理なんですよ。

だって、いま自分が持ってる案件だって自分の月給の何倍や何十倍もの受注額だったりするじゃないですか。そんなもん、賠償しようにもできないっちゅうの。貯金いくらあっても足りんわ

いや、だからそういうことじゃないんですよ。僕は、本当の意味で「その案件の責任を持つ」ことができるのは基本的に経営者だけだと思っています。賠償するだけのお金は会社にいくらかあるでしょうし、最悪、「クライアントに請求しない」ということはできるし。

しかしWebディレクターごときが、案件が炎上したぐらいで無給にされたら困るし、そもそもその程度で賠償になるかすら怪しい(金額的にね)。そして、それでいいんですよ。だって会社員なんだから。

「受注した案件のすべてに責任を持ち、何が何でもなんとかしろ、なんとかできなかったら全部お前の責任な」

なんていうのは雇用形態として絶対的におかしくて。もしそうするなら、それはその案件により得られる利益もまるっとぜんぶよこせっちゅう話じゃないとおかしい。それは、経営者かフリーランスなんですよ。

だから、我々は会社員であって、案件の全責任を負うなんてことは到底できないし、そのかわり会社がどんなに儲かってもダイレクトに給料が上がったりもしない。*1

いわゆる制作会社の「案件責任者」なんてものは、実態は「その案件の成否によって査定に最も影響がある人」ぐらいなんですよ。(まあだから、メンバーの中でその人が一番成功するようにがんばった方がいいんだけど)

というかこれも「Webディレクター」ではなく「案件責任者」の話なんだけどね。多くの会社でそれがイコールなのでそうなってるけどイコールじゃないこともあるし、本来はそもそも違うもので。

 

「なんとかする」なんてのはもっと無理

へこむんですよ、ディレクターは。

案件が炎上したり、成果が出なかったりして。

そして相談されたりするんですよ、僕は。

そのとき、だいたい僕は言うわけです。

 

バカじゃねぇのか、おまえ。(本日2回目)

 

おいひどいな。
口が悪いな僕は。

いや、でもね、そうなんですよ。

じゃあここで皆さんに質問です。

下記のような案件、うまいくいくでしょうか?

  • クライアント担当者のリテラシーが著しく低い(PC操作すら危うい)
  • クライアント上司がすぐに決定を覆す
  • 基本的にクライアント担当者はつかまらない
  • デザイナーは専門学校から来たインターン
  • コーダーはテーブルレイアウトで時代が止まってるようなおじい

このプロジェクト体制で、複数ページのWebサイトをつくれと。

当然、納期や予算はすべて守った上で。

無理に決まってんじゃんね(笑)

こんなの、もはや草サッカーチームを率いてレアル・マドリードに勝てと言われてるようなもんで、できるはずがない。

 

「(すべての)案件をなんとかする」

なんて無理なんですよ。せめて制作側だけでもすべての工程を自分でやるっつうならどうにかなるとしても、そうじゃないんだから。

そもそも、そんなのは仕事じゃない。前提条件の時点で無理な場合があるのに、それを考慮せずに「とにかくなんとかする」なんてその時点で論理破綻しているし、そんなもんができるなら全知全能に近い人なので、もっと他の仕事をした方が良い(笑)

 

ディレクションとは「電話を何回かけるか」なのです

いやまあ、電話するのがディレクションというわけじゃないけれどもw

たとえば、これ。

基本的にクライアント担当者はつかまらない

じゃあどうするか。

やり方はいくらかあるわけです。

そう、"電話"する。
メールを送っても音沙汰ないのなら、電話をしてなかば強制的に捕まえればいい。しかし、もちろんこれにも限界はある。携帯電話だと出てくれないことはあるだろうし、会社の代表電話にかけても居留守を使われる可能性だってある。

何度もかければいいけど、それでも無視されるかもしれないし、さすがにそれだって限度がある。毎日毎日1時間に10回も20回もかけるわけにいかないでしょう。

となるとその次に出てくるのは、その電話の回数について

  • 「何回までなら妥当か」
  • 「何回かければ"受託側としてやるべきことはやった"と言えるか」

という話が出てくる。
これはディレクター本人が決めることじゃなくて、所属している会社が決めること。いくらの受注に対して、どれくらいのディレクションを提供するのかは、会社が決めることだから。(母ちゃんが息子のために朝何回起こしに行くか、と本質的には変わらない)

つまり、こういうことになる。

  • 「メールで捕まらない人には電話する」:ディレクションのスキル
  • 「電話する回数を定める」:ディレクションのサービルレベル(の定義)

要するにディレクションはね、ただのスキルなんですよ。

そしてスキルなんてもんは「それをやれば必ずうまくいく」なんてものではない。
スキルはどこまでいってもスキルでしかなくて、うまくいくかどうかは、そのスキルを使う人や状況による。

そしてディレクターは、「ディレクションをする人」ですね。

ただそれだけなんですよ。

たかだかそれだけの人なのに、案件の全責任を背負いこんで、うまくいかなければすべて自分のせいだと思い込む。

あんた、いったい何様なんだと。
そりゃあ僕だって、仕方なく言うわけですよ

バカじゃねぇのか、おまえ。(本日3回目)

でも、そうでしょう?
我々、普通に月給もらってるただのサラリーマンですよ。
そんな、案件のすべてをなんとかできるなんて神様みたいな力無いし、それを求められるのも困るし、自分がその役割を担ってると思い込むなんてそれこそアホかっちゅう話で。*2

いや、案件がうまくいくようにがんばるべきですよ?

でも、案件がうまくいくようにがんばるのはディレクターじゃなくたって同じだし、がんばることと「ケツを持つ」「とにかくなんとかする」のは違う話で。

 

遠藤保仁だって負けるんだから

僕は「Webディレクターはサッカーにおけるボランチだ」と言ってるんですけども。

その根拠はいくつかあって、

  • ピッチ上の舵取り役である
  • ピッチ上でチームのほぼ中央に位置し、すべての味方選手とやり取りする立場にある
  • 攻撃と守備両方のタスクを持っている
  • なんでもできると良いが、そのすべてに専門家が別に存在する
  • 泥臭いことも厭わず、華やかな部分だけではない(攻撃における"彩り"はデザイナーの仕事)
  • チームに対して上下関係にあるわけではなく、ピッチの外で戦う者でもない(=監督ではない)

といったような。

だからすごく「ボランチ」に近いと思ってるんだけど、日本サッカーでボランチといえば日本代表の最多出場を誇る、「ヤット」こと遠藤保仁さん

多くの人はご存知ないと思うけど、いま彼はJ2のジュビロ磐田にいる。昨年、低迷するジュビロに加入すると、そこから18試合をたった3敗で乗り切るという躍進を見せるほど、チームを変えたんですよ(ちなみにそれまでは24試合で8敗、加入直前の5試合はなんと1分4敗だった)。

もはや、彼はボランチという枠を超えて「遠藤保仁」というポジションを確立したのではないかとすら思うんだけど、でも、その彼がいても負けるときは負ける。あのヤットがいるのに。

でも、当たり前なんですよ。

サッカーは11人でやるもので、遠藤保仁とてピッチに立つ11人のうちの一人でしかない。環境や状況によって負けることはいくらでもあるし、彼がいたところで草サッカーチームはたぶんレアル・マドリードには勝てない。

Webディレクターだって同じで、プロジェクトメンバーの一人でしかない。もちろん、サッカーのボランチがそうであるように、プロジェクトメンバーの中心にいて、ほぼ全てのメンバーと直接やり取りできるし、その判断1つで勝ったり負けたりする。でも、判断1つで戦況が変わることと、必ず勝てるかどうかはぜんぜん違う話でしょう

負けるときは負けるし、僕らはただの人間なんですよ。プロジェクトメンバーの一人で、ディレクションというスキルを実施する人に過ぎない。

 

そもそも、できることは3つぐらいしかない

ボランチも似たようなところあるんだけど、Webディレクターって複雑なように見えて、その実できることはそんなに多くないんですよ。

はっきり言ってしまうと、出来上がるものに対して間接的にしか関与できず、実はできることなんて3種類ぐらいしかない。

デザインなんてできないから(やってもいいけどそれは"ディレクション"ではない)、Webサイトそのものの見た目を自分で直接つくることはできない。HTMLは言わずもがな、サーバサイドのあれやこれやもできない。

本当にシンプルに整理すると、Webディレクターって3つの局面しかないのです。

  1. 「ヒアリング」のシーン
  2. 「プレゼンテーション」のシーン
  3. 「ウェイティング」のシーン

「ヒアリング」は相手から要望や意見を聞くシーン。

「プレゼンテーション」は相手に指示や意見を伝えるシーン

「ウェイティング」は上記2つのどちらでもない、待ちのシーン。

ディレクターはサイトオーナーでもないしデザイナーでもないので、意思を最初に発する人でもないし、作り上げる人でもない。
要するに、何を思ってるのか聞き出すか、聞き出したそれをまとめて別の誰かに伝えるか、その間で待つか、それしかないってことです。

たったこれだけしかできないんですよ。
いや、そりゃスケジュール(WBS)つくったり、仕様を整理してドキュメントにしたりするけど、それらはすべて「プレゼンテーション」に分類されるもので、それ自体が表に出るわけでもないし、ひらたくいえば「プロダクト」にはならない。

どんなにうまくヒアリングしても、クライアントに説明能力が著しく欠如していたら限界があるし、どれだけうまく要件を整理して伝えても、そもそも受けるデザイナーのセンスがボロボロだったらどうしようもない。

だからもともと、「とにかくなんとかする」なんて無理だし、逆にいえばだからこそ「その3つの局面でいかにうまくゲームをつくるか」という「スキル」なのであって、それ以上でもそれ以下でもないんですよ。

ちょうど、遠藤保仁さんがポジションニングひとつ、パスひとつ、声かけひとつで、チームや戦況がどう変わるか、とプレーしてるのと同じように。注意深く観察しながらひとつひとつ手を打っていくのが僕らディレクターの仕事であり、そしてそれ以上のことはできない。

 

ベースにある「それ」を意識するところから、すべてははじまる

僕はなにも「案件のケツを持つ意識なんて持つべきではない」と言ってるわけではなくて。そう思えて、それで楽しいならそれがいい。きっと遠藤保仁さんだって「試合を俺がコントロールしてやる」と思ってる(っていうか実際にそう言ってた)。

ただ、「俺は試合をすべて完全にコントロールできる」と思い込むことと、「コントロールしようとトライすること」はぜんぜん別であることと同じように、「案件のケツを持つ意識でいること」と「案件のケツを持つのがWebディレクターの仕事だと思うこと」は全く別の話で。

無理なものは無理で、もしWebディレクターがプロジェクトを扱うにおいて最も重要な意識があるとしたら「とにかくなんとかする」ではなく「無理なものは無理であるときちんと判断できること」なのですよ。そりゃ無理だとわかってることに投資させるわけにはいかんし。

「この案件、おれがなんとかしてやるぞ!」と思った方がうまくいきやすいのは事実なんだけど、それは前述の遠藤保仁さんの心持ちと同じ話で、さらにいえばもし「案件をなんとかしたい」なら、なおのことまず現実を直視して正確に捉えることこそが重要で

できないもんをできると盲信してる時点で、もうそれこそが僕はディレクター失格だと思うんですよ。

 

プロジェクトの中で、できないこともできることもあり、では、いま自分は何をしたらベストな結果になるか。

 

この思考こそが重要なわけで、「案件のケツを持つのが仕事」とか「なんとかするのが仕事」なんて捉えてる時点で、違うんですよ。

その人はディレクションのことがわかってない、ただの精神論者だと、僕は思ってます。

 

僕らが担ってるのは、ただのスキル(の行使)ですよ。

試合の浮沈のカギを握る"ボランチ"かもしれないけどね、

ボランチだって、11人のうちの一人でしかないんだから。

 

できないものはできないと、正しく判断していきましょ。
全責任を負って潰れるなんて、それこそディレクションというものがわかってないんですよ。

 

おまけ

ちなみにこの記事は、先日書いた以下の記事の続きです。

toksato.hatenablog.com

*1:これは「労働者なんてのは多かれ少なかれ搾取される立場である」ということの証左でもある

*2:そう思いたければ思えばいいんですけどね。思う分には自由なので。