笑顔を創りたいWebディレクターの日常

某事業会社勤務のWebディレクター。つまり「なかのひと」やってます。Web業界からひょんなことで専門学校の先生に。そしてまたWeb現場に戻ったWebディレクターのブログ。

Web制作会社は何を創っているのだろうか。

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「原稿をご支給ください」

 

Webディレクターがクライアントによく言うフレーズ。

 

僕は昨年末まで受託Web制作会社でWebディレクターで、いまはとある事業会社のなかのひとになった人なんですけどもはじめましてこんにちは。

 

受託Webディレクター時代、冒頭のフレーズを言うのが嫌いで、8割ぐらい自分でサイトのコンテンツもつくってました。

 

もちろん、そのサイトで扱う商品やサービスの専門家ではないのでヒアリングやコンテンツの元となる素材(パンフレットとか?)はもらいます。

 

ただ、ヒアリングとパンフレットやスライド資料をもらったら、そこからはそれを読み込むだけでなく、専門用語についてネットで調べたり(All About先生には大変お世話になりました)、競合他社製品や、マーケットについてニュースを漁ったり、ときには本を読んでみたりして、「このページにはこんな状態の人がこんな知識レベルでこんな心理で来るから、こういうページタイトルでこんな見出しとこんな文章や図版が必要だ」と考えて、文章の一文字に至るまで、自分でつくってました。

 

なんでそんなことしてたんか?っつう話ですね。

 

そんなわけで、うぇぶぎょうかいのむめいでぃれくたーのお時間です。

 



 

これ、本当は良くないんですよね。

なぜならプロジェクトを段取る「ディレクション」と「コンテンツ制作」は別の能力なので、本来は別料金をとるべきです。もうほとんどライターの領域に片足つっ込んでますしね。

 

なんでそんなことをやっていたか?

 

器を作ってるだけじゃねーかと思った

と、思ったからです。

まあ、思う前からやってた気もするんですが(笑)

ユーザーがそのWebサイトをツールとして使うのかメディアとして接するのかと分けた場合、数の論理で言えば圧倒的に「メディア」が多いですね(コーポレートサイトだってメディア)。まあメディアかどうかはともかく「運営者が発信した情報を読みに来る」という性質のものが多い。FacebookやtwitterなどのSNS、食べログのようなCGMの方がユーザー数は圧倒的に多いんでしょうけど、世の中のほとんどのWebサイトはそれではなくコンテンツを掲載している情報発信型のサイトです。

 

そんなとき、ユーザーに対して最も貢献するのは言わずもがな「コンテンツ」です。結局どんなに素晴らしいコンセプトワーク、サイト設計をしようとも、最後の最後、コンテンツ、いや「テキストや図版」がユーザーに響くものでなければすべてが無駄になる。

 

サイトの設計やUIだけ作ってるだけじゃ、料理でいえば器とか内装をつくってるだけで一番肝心な料理そのものをつくってないことになる。それが僕にはたまらなく嫌で、本当は良くないことだと思いながらも自分で文章まで書いてました。

 

 

基本的にほとんどの人は文章が書けない

僕がなぜ自分ですべてをつくっていたのかというと、自分がやりたかったからというだけじゃなく、他にできる人がいなかったからってのも大きな理由です。

クライアントにページのテキストを書いてもらうこともあるけど、これが大半の方は書けない。いや、「文章」は書けるんです。でも、自分たちが伝えたいことをそのまま書いてしまったり、ページのバランスにそぐわない長さを書いてしまったり、言葉遣いが全体と合ってなかったり、語彙がとても偏ったりと、たくさん問題が出てきます。

メールの文章を書けることと、知らない誰かに読んでもらうための文章を書けることはまったく次元の違う能力なんですね。

僕は子供の頃から文章を書くのが苦ではなかったんですが、それでも、やっぱりこのブログをやってるのはとても大きい。

「脳内になんとなくある伝えたいこと」を「言葉に紡ぎ出して繋げる」というのは、結構大変なんですよね。僕はこのブログを始めてから自覚できるほどに「あ、早くなったな」と思いました。トレーニングによって上達する部分が(大いに)あるんだろうと思います。

 

思えば受託Webディレクターの僕はこのスキルにだいぶ助けられた気がします。

「toksatoさんはこちらがワーっと伝えたり送ったりしたことを上手くまとめてくれて、自分で勝手に勉強してユーザー向けによしなに改変したり加えたりしてコンテンツにしてくれるし、ダメな時は"それではユーザーに伝わらないかも"と言ってくれる」

と、言われてました。ありがたやー、ありがたやー。

 

 

いまはどうしているか

事業会社に来て、いくつものWebサイトやプロモーション施策、マーケティング戦略(謎)的なものを担当しています。

そうすると制作会社さんに「原稿をご支給ください」と言われる側になって、原稿つくったりしてます。

 

やってること変わらねーじゃねーかと思ったりもするけど僕は元気です(謎)

 

いや、ふと思うわけです。

他のディレクターさんや設計する人は何が楽しくてその仕事してるんだろうなぁ、と。

僕は事業会社に来て、これまでよりずっと「担当するWebサイトのコンテンツ部分のこと」がわかるようになりました。なかのひとになったんだから当たり前ですね。内部にたくさん有形無形の情報があるし。だから、楽しいです(まああんまりそればかりやってるわけにもいかないんですが)。

 

それを僕がやると、制作会社さんは本当に「器」をつくってるだけになって、それは何が楽しいんだろうか?と思うわけです(否定したいわけではないです)。

 

 

Web制作会社の生存戦略

「コンテンツがつくれること」はスキルの1つに過ぎないです。

ただ、僕自身が重宝されたように、これができるとクライアントから重宝されます。というか、いまの僕ですら「つくってくんないかなー、めんどうだなー」と思ってますから(笑)

 

もちろん、きっちりプロジェクトをまわして納品してくれるディレクション能力というのもスキルの1つだし、売り物にならないわけではないと思います。ただ、これだけインターネットが普及し、どんな企業も当たり前のようにWebを使い出した現在、「器をつくれるだけ」では厳しくなってくると思います。

 

端的に言えば「発注したら利益や成果が出るんですか?」というところが大変重要になりますね。投資したお金に見合う何かが無いと、作る意味が無いですから。

でも成果とはコンバージョンだけではないです。ディレクションだって、「こちらが不得手なことや忙しいときに先回りして導いてくれる能力」というのはじゅうぶんに「成果」になります(そのぶんだけほかのことができるはずだし)。

ただ、それは裏を返せば「こっちでやればいい」ということにもなるし、どんなにディレクションをしてくれたところで、最も物量や思考が必要な「コンテンツ設計の具体化」を発注側がやってたら、ゆーてもそう楽にはならないんですよね(笑)

 

といって、器をつくるだけなのがダメってことではないです。

ただ、それは飲食店でいうところの内装や外装、食器類だけをつくっているようなもので、世の中にどれほど超ハイクオリティ内装や外装が必要なお店があるでしょうか。

おそらく多くのお店はそれらは必要最低限あればじゅうぶんで、そんなことよりまずお客様が一番まっすぐに受け取る「料理そのもの」の方が大事なんだと思います。

Webサイトも同じで、もちろんデザインによる世界観、ブランドイメージを表現することは大事なんですが、企業のほとんどは「超かっこいいキービジュアルとキャッチコピー」ぐらいではブランドは伝わらないんですよね。その前にまずリアルも含めた体験の方があるわけで。

超イケてるデザインやUIをつくる制作会社があるのはとても素晴らしいことですが、本質的にそれを求めている企業がどれだけあるのか、という話です。

ビジュアルデザイン力だけで攻められる制作会社なんてほんの一握りだろうし、そこにロジカルをのせてデザインを科学する(謎)ことが求められるわけですが、それとて手段にすぎず、そこまで良いデザインを検討するぐらいならさっさとつくって出しちゃった方が安く早く済んで成果も出る、ということも多いです。

となると、Web制作会社はどこでクライアントのビジネスに貢献して、なにをバリューとして明文化して生き残っていくのか、という話になりますね。

 

Webディレクターの生存戦略

所属する会社のバリューをどうするかなんてのは、一人のディレクターには少し重い話ですが、ただ、これだけ流動性の高い業界において、まず考えるべきは会社のことより自身のことではないかと僕は思います。

そのとき、僕は自身がそういうことが好きでコンテンツを創るようなことをしていたけど、それはこうやってブログを書くことで自覚的にトレーニングしてきた部分もあります。好きだからできることだけど、好きなだけではダメで、自身が生き残っていくためにどうするのか、ということはやはり考えなければならないと思います。

ちなみに僕はいま受託Webディレクターという経歴を持って事業会社のWebマーケティングを実践する部署にいるんですけど、悲しいかなUI設計能力とかIA能力とかはあんまり役に立っていません(笑) それより何倍も役に立っているのはプロジェクト全体を見てマネジメントしていくプロジェクトマネジメントだったり、近々対応を整理して適切に振る舞うディレクション能力の方です。

UI設計なんてものはWebサイトを創るうえでの一工程でしかなく、そもそもWebサイト制作のプロジェクトが無ければ発生しないタスクなんですよね。それと比べるとプロジェクトというのは社内のどこにでも、それこそ無数に転がっていて、プロジェクト設計や定義、WBSやタスク管理の基本的なことというのは、意外と体系的にスキルとして教えられている人や会社は少ないです。

だから、プロジェクトがとん挫してしまったり、プロジェクトのスタート時期に僕がお呼ばれすることが多いんですけど、これはWebディレクターとしてプロジェクトを管理し、さらにそのなかでもCMSやDBを持った検索システムなどのシステム開発チックな方のプロジェクトをやってきたからってのが大きいです。

これも、実は前の会社に入る前にいろいろ検討した結果なんですよね。
僕はたぶんUXとかIAの人だと思われてるんですけど、ずっとそれをやるよりは、それはそれで自分で勉強しつつ、Webシステム開発系のプロジェクトとかそっちができるようになった方が良いのかなと思って、苦手とわかりつつそっちもできる「ディレクションを得意とする会社」という面で選んで前の会社に入りました。(それだけじゃないけど)

正直、結構つらかったけどwそういう案件をいくつか担当させてもらえた結果、いま上記のようなプロジェクトマネジメントができたり、実は事業会社で一番弱いテクニカルな部分やインフラ側の話も割とできるようになりました。(「AWSのインスタンスがいくつでドメインがどこにどうなっているのか、DBは別サーバでIP制限とかかけてるんですか、ロードバランサー入ってるんですか」とか聞くと情シスの人が目を丸くする感じあります)

 

これはあくまで僕の例です。

ちなみに入ってから思いましたが、普通に受託のWebディレクターやってるだけでは事業会社側の人は無理だなーと思います。僕はジョブホッパーなクズなのでなんとかなってる(笑)

 

でも、自分が何を強みにして生き残っていくのか、というのは考えるべきだと思います。組織人としては会社のバリューが先に来るんですけど、会社のバリューに守られてる側では厳しいし、その会社のバリューというのは基本的には内部にいる自分を含めたメンバーの能力によって成り立っているわけだから、どちらにしろ自分が何を売りに戦っていくのかは、歳と経験を重ねれば重ねるほど強く深く考えていかないといけないですよね。

 

少なくとも、会社の名前だけで仕事をしていて、器を作って満足しているだけのWebディレクターは、歳を重ねるごとに苦しくなってくるんじゃないかなと、思います。