ええ、ひとつじゃないんですけども。たくさんあるんですけども。
タイトルでぶっぱなして1行目で火消しをするという人騒がせ最小サイズ形式でお送りしたいと思います。
もちろん"転職"する以上、自身に(年収や年齢に合わせた)ある程度のスキルが必要なのは当然ですよね。ただ、どんなにスキルが高くても、たった一つのこの資質が無いと、たぶん事業会社には転職できないし、してもうまくいかないだろうなと思います。
えふしんさんのこの記事を読んだり、
Webディレクターブログの先駆者といえばこの方(と僕は思う)元セシール:島元さんのこの記事を読んだり、
して「あー、僕がいま感じていることは似ているけどちょっと違う観点あるなー」と思ったので書いてみます。
「資質?・・・それは資質♪ ししつ♪ シシツ♪ ししつ♪ シシツのラッコちゃん♪、ってわしペンギンだけど」と思ったという全然関係ない画像
そんなわけで、うぇぶぎょうかいのむめいでぃれくたーのお時間です。
ずーっと受託Webディレクターだったけど、いま事業会社にいます
という人です。
どういうことをやっているかというと、人材系の会社で採用のWebマーケティングを受け持っています。「人材系の会社の採用」ということはつまり、いわゆる普通の会社の中途採用とか新卒採用とは違って、それそのものがサービスの根幹になり得る部分の話なので(企業に働いてくれる人を届けるビジネスだから)、ここに結構な投資をすることになります。「企業で採用担当やってました」っていう人事畑の人たちとはだいぶ違う職種ってことですね。
具体的には、(いわゆるいま流行りの?)オウンドメディアの立ち上げや運用、リスティングやらリマケやらのWeb広告、ランディング先となるLPの設計や管理、KPIに対して分析や改善、BIツールによる全体戦略の分析や、MAツールを入れてリードナーチャリングやコンテンツマーケティングの実践、などなどです。
(採用する側としては)割と使い勝手の良い人材だったとは思う
また、Webマーケティングや戦略立案、実行などPDCAをまわす方に専念したいとは思いつつ、そもそもモノができなければそれもまわせないので、パートナーやベンダーさんに対しての指示出しなど、つまり受託時代と同じように「制作のWebディレクターっぽい立ち回り」もしています。
僕のことを傍から見ればUXの人だと思う人が多いんだろうと思います。あえて「どれが強いんだ」と言われればたしかにそのとおりなんですけども、でも僕は人間中心設計専門家の資格も持ってないし、ペルソナとかカスタマージャーニーとかばっかりやってたわけでもないです。
大型Webシステムサイトとか、CMSのスクラッチ案件などの割とシステム系の案件も持ってましたし、各種ツールとのシステム連携、またDB設計や定義書のためのディレクションなどもやってました(僕自身がDB設計できるわけじゃないけど)。
なので、Webに関しては集客(広告周り)から、サイトの戦略策定、サイトおよび画面設計、デザイン、フロントエンド開発、バックエンド、インフラ側まで、基本的にはすべての部分でディレクションを担当していました。普通に、システム開発の仕様書とかつくってチェックしたりしてたので、機能要件定義書、非機能要件定義書、画面詳細仕様書、サーバ構成とか、そういうのも見てましたねぇ。
したがって、おそらく事業側としてWebまわりをどこかに発注する際、どのパートナーやベンダーとも話ができるし、ディレクションもできると思います。まあ、実際にやってるし。SEOとかSEMだけ、UXやサイト設計だけ、デザインやHTML/CSSだけ、システム開発だけのディレクターだったら、こうはいってないと思います。
ネット広告もSEOも、デザインもHTMLもシステムもインフラもDBも、ぜんぶ第一人者ほどは知識もスキルもないですが、なんとかディレクションできる、エンジニア達と対等に話ができる程度にはすべて持っているのは、(自画自賛ですが)事業会社のWeb担当としてはなかなか使い勝手の良いスキルを持てたかなと思います。
ほんとに、UI設計の話をした後にそれをシステムに落とし込むときの仕様や取捨選択をシステムディレクターさんと話しあって、テスト設計の話、運用時のことを踏まえたサーバ構成、ロードバランサーどうすんべや、WAF入れる~?こんちゅーす!©脳みそ夫、みたいな話をしたり、ツールベンダーとAPIの仕様書見ながらあーだこーだ話をしたりしてます。
お仕事は超楽しいです
まあ、もう作るのは良いというか、そこはべつにそんなに楽しくないんですけどねwいや、楽しいっちゃあ楽しいです。これまでもやってきたし。でも、いま自分がやるべきはそこではないので。
前述のとおり、Web施策に対して一通りのことは手が出せる知識もスキルもあるので、割と何でもやろうと思えばできるし、そして実際に予算があります。これまで一生懸命ドキュメントつくってクライアントに提案し、承認を貰ってやっとできた施策も、それでもできなかった施策も、いまは自分の判断ですべてができる環境にあります。
「toksatoさん、良い提案だと思うし、先進的な事例としては取り組まなければと思うんだけど、なかなか上を説得するところまでは難しい・・・」
こんなことをよく言われてました。
それが、いまは無いんですね。
自社のサイトまわりだけでなくリアルも含めた数字をみることができて、それを分析し、新しい一手を打つ。ユーザーの行動シナリオをつくり、その流れの中でどこに問題があるのかを分析し、仮説を立て、解決策を考案し、実行して、その数字を見る。
受託にいるとどうしてもワンテンポ遅れたり、クライアントの承認がなかなか得られなかったりしてできなかったことが、いまできています。しかも、自分が受け持つ自分のサイト、自分たちのビジネスで。だから成果が出てももちろん自分たちの功績になります。
おそらくこれは、受託Webディレクターが持つ、一つの夢のカタチではないかと思っています。
どんなにたくさんのWebサイトを見てきたと言っても、そのすべてはクライアントのもので、受託Webディレクターというのは自分一人の判断では、自社だけの判断では何も動かせません。そしてビジネスモデル上どうしても「新しいクライアント」との仕事もしなければならず、自身が担当したサイトばかりを見ていられないというジレンマ。
ここには、それがありません。もちろん、予算を取るにも使うにも上長や経営層への説得が必要ではありますが、そもそもWebのエキスパートが少ないこの環境ではある程度の裁量を渡され、自身でPDCAをまわせます。
そりゃ、楽しいですよね。
でも、いいことばかりじゃないよぅ・・・
おそらく、どんなWebディレクターでも一度は夢見るその環境にいますが、ぜーんぜん、ここは夢でも何でもありません。いや、むしろ地獄と語り変えてもいいぐらいです。
そりゃ、これまで受託でWebをやってきた人間が、大きな予算と裁量を渡され、とくに面倒なドキュメントをつくって合意を取るまでもなくサイトを扱えるというのは楽しいです。楽しいですが、世の中そんな楽しいだけの仕事があるはずもなく。
事業会社が担当者に求めるのはディレクション力でもクリエイティブ力でもなく、ただただ「成果」です。"経営への貢献"です。それ以外はすべて手段に過ぎない。このあたりは受託と明確に違うものです。「我々はKPIを設定しその結果にコミットします!」という受託制作会社やコンサル会社もいますが、それとて基本的には成果物を納品したらお金貰えますよね。
僕ら事業会社のWeb担当者はそうではありません。
もちろん、成果が出なかったからすぐに減給になるということではありませんが、査定には間違いなく響きます。成果が出せないことが続けば、とても簡単に給料が下がるところです。
だから、怖いですよ。
いままで「がんばって成果出せるようにします!」と言いながらも基本的にはクライアントから合意を貰って納品すれば良かったものが、いまはそんなものはまるで評価されません。どんなに「良いもの」をつくったところで成果が出なければ誰も評価してくれない。そんな、常に成功し続けるなんて不可能なのに。
Webサイト構築、広告投下、改善施策、その一つ一つが本当に真剣勝負です。その真剣度合いは受託時代とは比べものになりません。一生懸命やってる受託の人は否定するかもしれないけど、ここは譲れません。こっちはその成果に食っていけるかどうかがかかってるんだから!納品すればとりあえずお金貰える受託とはさすがに危険度が違うのですお!
事業会社に転職する人に必要なたったひとつの資質
だから「くっそー、もうクライアントの言いなりになっていちいちわからない人のためにドキュメントつくって合意取ってなんて、やってられねぇ!自分でやりたい!」っていう動機で事業会社(発注側)に転職したいという人は、やめておいた方が良いと思います。
たぶん、メンタルが持たないから。
前述のとおり、作ることは手段にすぎず、これまでやってきたディレクション力とか制作の力とか、そんなもんは誰も評価してくれません。それで得た結果しか見てないですから。
まあ、ディレクション力とかプロジェクトマネジメント力というのは実はけっこう重宝されるのですが(それも後日ブログにします)、でもそれも便利に使われるだけですね。「それを持っていかに経営に貢献したか」がないと。
すべては儲かる、というか成果が出る、成果が出て経営に良い影響を与えるための手段に過ぎない。
そういう意味では、えふしんさんの記事中にあった
「その1文字を直す」のが、UXにとって有益であるならば、その1文字にこだわらなくてはいけないのがWebサービス。だから面倒臭がってもいいが、そのタスクに対する有益性はしっかり見出しているというのが、Webサービスにおけるエンジニアに求められる態度だ。
これは正しいと思います。
"「その1文字を直す」のが、UXにとって有益であるならば"というのをもう少し詳しく書くと、「ビジョンやミッションに共感できるか」なんですが、ありきたりなこのフレーズは、実はこれでは足りないと思っています。
「ビジョンやミッションに共感し、自身の仕事が貢献する姿を想像する力」
が、事業会社に転職する人には必要不可欠だと思います。
ちょっとこれだけじゃわからないので、僕の話をしましょうそうしましょうそうしましょう(謎)
急転直下!直感で決めた転職先
で書いた通り、僕は数十社から直接面談依頼のスカウトメールをもらい、面談や面接を重ね、そのなかで内定をもらった一社に転職をすることになります。
でも、実は本命はいまとは違う別の会社でした。
選考を進めていく中で、一社、自分のスキルやキャリアに合いそうな会社がありました。ネット専業の旅行代理店です。つまり旅行系ECサイトになりますね。相手側の反応も上々で、1.5か月ぐらいかけて現場、管理者、人事総務の面接を通り、残すは社長面接となっていました。
選考仮定の中でも直接お電話をいただいて「ぜひご一緒したいと思っている」という旨の大変光栄なご連絡ももらっていたし、僕自身としても自身のUXやUI設計、Webディレクターとしてのキャリアを活かし、ECという非常に(成果としては)わかりやすいところで勝負できるというのはとても魅力的で今後のキャリアにも合っていると思っていました。(ちなみに最終的にこの会社からも内定をもらうことになります)
しかし、社長面接の直前に、名前も知らない人材系の会社からスカウトメールをもらいます。
どうでもいい、興味を持てないメールもたくさん来る中、自分でもなんで目に留まったのかわからないんですが、なんとなく気になるメールでした。それで、すぐに面談をしましょうということでお話を聞きに行って、そこで聞いた事業モデルの話にとても感動したのを今でも覚えています。
結果として、「おそらく内定をもらえると思われる会社の、社長面接が2日後に控えている」ということを正直に伝え、相手も気に入ってくれたのか「それは大変ですね!ではこちらも急ぎます!」と、そこからわずか1.5週間ぐらいで役員面接、社長面接まで進めてくれることになります。
お察しのとおり、この会社が現在所属している会社です。
当時は自分でも自分の考えがよくわからず、一応は迷っているスタンスを(自分自身にも)取っていたのですが、いま考えればもうほとんど今の人材会社の方に意識が傾いていたと思います。
その理由はいくつかあるのですが、やはり決定打は事業そのものに魅力を感じたからだと思います。
究極的にはWebじゃなくたっていい
「toksatoさんは、もしこのあとWebとかマーケティングとは全然関係ない部署に行けと言われたら、どうしますか?」
いまの会社で同僚にこう聞かれたときに、自分の結論に不思議に思い、少し考え込んでしまいました。でも、結論は変わりませんでした。
「この状況でなぜ他の部署なのかはわからないけど、そこをちゃんと説明して僕の能力がそこで活きると、会社の言うことが納得できるならべつにぜんぜん構わないですね」
と、答えました。
結局、なんでもいいんですよね。究極的に言ってしまえば。僕はWebの人であり、UXの人であり、ディレクションの人なんですけど、それらこれまで培ったスキルの応用で何かが成し遂げられるなら、役に立てるなら、何でもいいのかもしれません。
いま、僕が受託時代とは全く違うプレッシャーにさらされても耐えられているのは、自分のやっていることが、誰かのためになると確信を持てているからだと思います。
僕は本当に、いまの会社のビジョンやミッション、「やっていること」や「これからやろうとしていること」を誇りに思っています。いつか、この会社のやっていることは日本の、苦しんでいる多くの人に笑顔を創れる仕事なんじゃないかと、本気で思っています。
思えば、この会社を出会い選んだ時点でそれに惹かれていたんだろうと思います。
僕が実際に仕事でやっていることは一つのWebサイトだったり、LPの画面設計であったり、GoogleAnalyticsの画面を見ているだけかもしれません。でも、それはすべて会社の成果のためであり、その「成果」とは、自社が創る誰かの笑顔に貢献する、その一つのプロセスが改善したことになります。
それが、楽しいんです。
プレッシャーが無いとは言わないけど、そんなことどうでもいい。自分が考えたこと、やったことが、日本の、いや、日本中の誰かの笑顔につながる。そこにコミットできる。そうしたら、すべてが楽しいです。もっともっと仕事ができるようになりたいです。
「ビジョンやミッションに共感し、自身の仕事が貢献する姿を想像する力」
僕も、入社してから気づきました。
でも、これがないと、事業会社ではやっていけないと思います。
中途採用として、即戦力採用としていろんなスキルはもちろん大事ですが、僕の様な広く浅くだけがその道ではなく、エンジニアリングに長けた人にもその道はあると思います。けれども、そのすべての人は、ビジョンやミッションをちゃんと捉え、自身の仕事がそれに貢献していると実感するための想像力がある人でないと、担えないと思います。
これが、僕の半年間の結論です。
また1年たったら変わってるかもしれません。
そのとき、また書こうと思います。