笑顔を創りたいWebディレクターの日常

某事業会社勤務のWebディレクター。つまり「なかのひと」やってます。Web業界からひょんなことで専門学校の先生に。そしてまたWeb現場に戻ったWebディレクターのブログ。

「デザイン」に対する価値観の危うさとWeb業界。

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これ、実は物凄いいろんな問題を含んでいる気がするんですね。

大きく分けると、3つ(1つは問題ではないけど)。

・「そこは教えてあげればいいのでは?」というWeb屋の意識の問題

・デザインというものに対する意識の問題

・段取り、スケジュール、ワークフローという設計に対する費用の問題

■「そこは教えてあげればいいのでは?」というWeb屋の意識の問題

「今日中に100ページくらいのWebサイトを作って貰えますか?」

「会社のコンセプトを変えようと思うんだ。Webサイトを作り直すのに2日あれば充分かな?」

「『クリアー』な背景にしてください。いや、白じゃないですよ。透明に。」

私「残念ながら、その機能はGoogleマップについてないんです。」

クライアント「その機能をつけるよう、Googleに交渉してみた?」

当たり前ですが、相手は素人です。

素人でいいですし、それで発注ができないということは絶対に無い。

そういう意味で言うと、上記のようなものはただ単に価格感やスケジュール感を知らないだけです。

それはもう、無理なものは無理でよいですし、教えてあえればいいだけと思います。

■デザインというものに対する意識の問題

デザインとは本来「設計」を意味するはずです。

「設計書」ではなくて「設計」ですね。

だから、Webデザインというと大概ビジュアルイメージの話になりますが、捉え方によってはマーケティングから仮説立案、情報構造、ビジュアル設計、コーディング全てを「デザイン」ということもできます(実際にそう訴えている人もいますよね)。

ただ、悲しいかなデザインというものがこの国では=ビジュアルだと認識されていると思います。いや、デザインの定義など別にどうでも良いのですが、問題はWebサイトそのものが「ビジュアル」だと思われているってことです。

「特にコンテンツがないので、ライバル社のサイトにあるものを入れておいてもらえます?」

Mixiをもっとよくした感じのサイトがいいです。」

「『バーーーン!!』って感じにしてください!もちろん音なしで!」

クライアント「デザインをもっと『一流に』してもらえる?」

私「『一流に』ってどんな感じですか?」

クライアント「よくわからないけど、前のWebサイトみたいに黒と金色を使ったデザインかな?」

私「あ、前のWebサイトの色はお嫌いかと思ってました。」

クライアント「嫌いだよ。でももっと『一流に』なると思うんだ」

私「『一流に』って何ですか?」

クライアント「なんか黒と金色って感じかな」

これらの話は、実はWebの話のようでいて、Webの話ではないと思います。

表面的にはWebの表現の話ですが、しかしこれを選定する基準はWeb以前の問題かと。

>「特にコンテンツがないので、ライバル社のサイトにあるものを入れておいてもらえます?」

こんなのは愚の骨頂ですが、それは「パクリ」とかそういう話以前の問題です。

そもそも、自社サービスを展開するべきWebサイトで「コンテンツが無い」なんていうのがおかしいです。コンテンツがないならWebサイトは公開しないほうがいいです。ユーザのためにならないから。Webサイトは単なる手段に過ぎないんです。大事なことは、「そこでお客様にどういうサービスをするのか」ということを考えることのはずです。それはもう、Webの知識以前の、心構えの問題なんですよね。

>「『バーーーン!!』って感じにしてください!もちろん音なしで!」

バーーーーーン!という表現は、僕は悪くないと思いますw

それが抽象的過ぎるのはわかりますが、それこそこちらがヒアリングして輪郭をはっきりさせていけば良い話。しかしですねぇ、こういう表現をするクライアントが往々にして困るのは、輪郭をはっきりできないからなんですよ。で、それはなぜかというと『バーーーーーン!』に根拠が無いからなんですよね。そのWebサイトに『バーーーン!!』が求められているなら、そうした方がいい。費用の問題さえクリアになるのならもう是非是非取り入れたほうがいい。Flashで『バーーーン!!』ってやりましょう!よっしゃー!つくるよー!という話なのですが、大概、他のサイトを見て雰囲気で「おお、カッコイイ」ぐらいの意識で言っているので、深くヒアリングしていくと中身が何も無かったりすることが多いです。

で、パターンは二つで、

 ・よくヒアリングしないで(輪郭がぼやけたまま)創る

  →創ったものが覆る(そもそも覆る以前に完成形が無いだけなんだけども)

 ・よくヒアリングする

  →Webの根本から話をして整理しなきゃいけないので費用も時間もかかる

要するに、Web技術やビジュアルに対するリテラシーの問題じゃないんです。

「Webでお客様にどんなサービスをしよう」ということを考える、そのベクトルすらないからこういう要望が出るんです。「コンテンツが無いから~」なんて、お客様に伝えたいサービスがあるならそんなこと絶対に無いんです。というか、そのコンテンツ=サービスなのだから、論理的に矛盾が生じている。それが、全く無いんですよね。Webサイトを創ることが目的になってしまっているんですよね。

これ、生々しい話ですが、やっぱり大きな企業の担当者の方、一部上場でなくとも広報部や経営企画部を持っているような企業の担当者の方はよく勉強なさっていて、意識が高いです。で、個人商店のオーナーとか、マーケティングだのサービス設計などを意識していない方は、こういう意識も低いです(当たり前ですけどね)。

で、これは大変な問題なのですが、そこから生まれる下記のことのほうが問題だと思っています。

■段取り、スケジュール、ワークフローという設計に対する費用の問題

上記2点の話、ぶっちゃけて言えば「じゃあ、教えてあげればいいじゃん」という話になる。

うん、仰るとおり。それこそサービスですよサービス。Web屋のサービス設計の話ですよ。

しかし当然、コミュニケーション能力によって費用が限りなく0に近づくこともあるけれども、誰かが対応している時点で1分だろうが費用は発生するわけです。生産性云々の話ではなくて、相手にレクチャーをする時点で当然費用がかかるという意味です。

するとどうでしょう。

 A社:Webはサービスの場。弊社のリアルビジネスとどう連動させよう?

 B社:当社のイメージを表現する!「『バーーーン!!』というカッコイイサイトにしなきゃ!

どちらにレクチャーやサポートの費用がかかるのかは明白ですよね?

B社が大きい企業であれば、それだけ説得しなきゃいけない人も増える。費用はバカにできません。

これは「きちんとサービス設計をしよう」というそもそものチャネルやメディア(というよりはビジネス?)に対してのリテラシーの高低によるものです。ただ、サポートやレクチャーという意味ではそれ以外のものもあります。一番始めに出した「■「そこは教えてあげればいいのでは?」というWeb屋の意識の問題」です。これだって、教えるのには当然時間が必要です。打ち合わせでチョチョイっと口頭で終われば良いですが、それだけじゃ終わらない話もある。

たとえば、スケジュール管理にしてもそうで、スケジュールをどう組むか、それをどう提示するかということでも変わってくるし、議事録をきちんと書くかメールベースで進めるかによっても違います。また、デザインに関してもそうでやり方としてはワイヤーフレーム→ビジュアルになりますが、ビジュアルデザインが完成した後に、また作り直しレベルで作成することもある。でも、それはきちんと手順を追ってコンセプトを決めてというウォーターフォールをしなかったぶん、何度も成果物を出すだけに費用がかかるし、ウォーターフォールはそれはそれで決め細やかにやれば書類や資料が増えて費用がかかる。

ものすごーく当たり前の話なんです。

 ・戦略立案には金がかかる(一生懸命考えたり調査したりするから)

 ・ビジュアルデザインには金がかかる(そりゃ、一生懸命絵を描くんだから)

 ・大幅な修正には金がかかる(そりゃ、また作り直すんだから)

 ・MTGを何度もしたり、制作側が確認を何度も取れば金がかかる(プロマネの密度)

 ・いくつも書類や資料を出して、確認を取れば金がかかる(プロマネの密度)

   ・

   ・

   ・

   ・

 ・発注側が楽をすればするほど、金はかかる

あははw

いや、至極当然のことなんです。

モノを創ろうと思えば、誰かが「どう売るか」考えなきゃいけないんです。

モノを売ろうと思えば、誰かが「どう売るか」考えなきゃいけないんです。

発注者が自分で考えれば、受注者は「じゃ、それに合わせてコンセプト決めてデザインします」と。

発注者が考えなければ、受注者が考える。そしてその分の費用がのっかる。

発注者も受注者も考えなければ?そりゃ、誰も使えないサイトが出来上がる。

成果物の確認一つとってもそうです。

世の中には「何にもしなくてもWebサイトができる」と思っている人がいるのですが、そんなわけがない。

よく、結婚式なんかで夫婦の馴れ初めを新聞なんかにしているのを見ますが、あれと同じ。

新郎新婦が「じゃ、後はお願い!」って何にもしなかったら、そりゃできない。

できあがったものを都度確認したり、材料となる情報、画像、テキストなどを出さなきゃできない。

自分から積極的にすぐに全てを出せば管理の必要が無い(というか自分でやっている)ので安く済む。

何をどうしたらよいかわからず、原稿管理や指導をしてもらう必要があればそのシートを作ったり共有スペースをつくるのに金がかかる。

材料も出さずに制作会社に依頼すれば、全くの0からテキストや画像を考えることになる。ライティングや編集の費用がかかる。

何にもしないで、制作会社に編集の依頼もしなければ?そりゃ中身は何にもないサイトができあがる。

こういうことを全ての発注者が一個一個わかれ!という話ではないです。

そうではなくて、そりゃ知識が無ければ、勉強していなければ誰かがそこを補うわけでその分費用はあがるということぐらい、一般人の常識として認識しておかないと、結局後で損をするよ?ということを言いたいんですね。

「やっすい旅行プランで旅に行ったら、宿も交通も最悪だった!」

というのは、ある意味当たり前なんですね。

宿えらび、スケジュール選びの知識がある、勉強をしていればそれを避けられる。

わからないからまかせっきりになり、結局失敗する。

 ・「どうしたら良い旅行ができるだろう?」と、考えることを、誰がやるのかということ。

 ・良い旅行ができるまでに、どうやって段取るか、そのプロセスを管理するということ。

この二つのタスクを、どちらがやるかということです。

両方任せれば、当然高くなる。

自分で勉強して、そこを補えば安く済む。

■発注者叩きをしたいんじゃなくてw

当然、我々受託側がより安価により良いサービスを展開できるよう努力することは鉄板です。

ただ、上記のように発注側が全く勉強をせずに価格しかみずに依頼をしているようでは良いWebサイトは絶対にできないし、良いWebサイトができなければ結局損をするのは発注者です。そして、そのサイクルがグルグル回ってしまうと業界自体が不況に陥ってしまうし、もっと言うと大企業が相手にするような大手制作会社しか残っていけなくなる(いや、この不況でそこも厳しいようですが・・・悲しい・・・・)。

だから・・・

発注側は、

 ・「どうやってお客様にサービスをするのか」というサービス設計が必要なだという当たり前のことを理解する。

 ・サポートや管理、レクチャーにも費用が発生していることを理解する。

 ・楽をすれば費用があがることを理解する

受託側は

 ・「そもそもWebサイトとは」ということを、もっともっとたくさんの人が発信して理解して貰う

 ・費用の所在をきちんと明確に見積もりにする

 ・楽をさせない変わりにどんなバリューを提供できるのか考える

ということが、業界やひいては社会を守り立てるために凄く重要なんじゃないかと思っています。

良いサイトをどんどん創らないと日本全体の生産性はいつまでたってもあがらないし、

良いサイトをつくるためには、良いクリエイターが必要だし、

良いクリエイターを保有するためには良い労働環境が必要だし、

良い労働環境を構築するには発注者側の意識も絶対に必要だし。

これ、Web業界だけの話じゃないと思いますけどね。

僕も、どこかで誰かに発注する「消費者」ですから。

安くてよいサービスは、大概誰かの犠牲の上に成り立っている。

業者やメーカーが24時間365日対応して当たり前なんてことは絶対に無い。

なぜなら、僕の仕事がそうだから。