今日は、神奈川県内の某市役所の方がいらっしゃいました。
要件はインターンシップのご依頼。
再来年度(平成21年度)に市のWebサイトをリニューアルするとのことで、
本校と何かしら共同でできないかという提案でした。
リニューアル前に来年度丸々1年間の準備・調査期間を取っているとのことでしたので、情報デザイン、HCDプロセスを研究題材としている本校はその調査にご協力させていただくことで、話が落ち着きました。
と、それはまあ良いのですが、気になったのが先方の一言。
「再来年度、リニューアルする際にはCMSの導入を考えている」
これが、ちょっと危険じゃないかなぁと思うのです。
【外注A氏とCMS活用Bさんのちがい】
http://www.i-tasu.co.jp/blog/2007/11/b.php
わかりやすくて、CMS導入の入り口としては良いなぁと思います。
ただしCMSといえば、上記URLのように
「HTMLの知識がなくても更新できる」
「情報発信の速度が格段に上がる」
「更新の手間が激減し、費用対効果向上」
ということが、世間一般には言われています。
が、これが一番危険だと僕は思います。
CMSはコンテンツ管理の概念、考え方です。
更新楽チンツールというのは側面に過ぎないはずです。
ユーザにどんな満足体験を与えるものなのか、
いつ、誰が、どのように情報を入力するのか。
しっかりとした情報設計、ビジネス戦略、それらを基にした運用設計をしなければ失敗すると思います。
※長いので続きは読みたい人だけということで・・・
■CMSは更新ツールだけではない
更新ツールという側面も確かにあります。
が、あくまで側面であって、CMSツールというのは、本来は「コンテンツ管理ツール」です。
トピックスや新着情報のみにツールを導入して手軽に更新するツールがありますが、あれは更新ツールであって、CMSツールの全容ではありません。CMSツールにも更新ツールの機能が備わっているというだけの話です。単なる更新ツールというだけの捉え方であれば、何もサイト全体を管理するCMSソフトを導入せずとも、頻繁に更新する一部分だけに適用する”ただの更新ツール”の方が効果を発揮すると思います。
■まず大事なのはコンテンツ管理をすること
更新するコンテンツを整理し、更新するメンバーを決定し、
確認するメンバーを決定することの方がずっと重要なことです。
どのようなコンテンツを、どのようなルートで、どのように発信するのか。
確認は?原稿は?公開する場所は?時間は?承認者は?・・・・・。
これを誰が整理するかというと、当然人間です。発信する側=自社の人間。
結局、CMSを導入すると言っても、コンテンツの整理やルートは人間がやるしかないのです。
■「ページ管理」ではなく「コンテンツ管理」
「CMSを導入したい」というクライアントと話していると、ついつい「このページをどうしよう」「このページのここは・・・」という話をしがちです。しかし、それではCMSツールの意味がない。それはページを限定した更新ツールの話です。それをそのページ毎に用意していたらキリがないし、ページごとにレイアウトが変わればそのぶんのツールを用意しなければなりません。結局、手間が変わらない。
CMSとは「ページ」ではなく「コンテンツ」の一元管理こそ、その命題。
一つのデータベースから、必要な部分を抜き取り、自動でページを生成する。
「ページ」で管理するということは、それと同数の「コンテンツ=データ」を管理するということ。
そうではなく一つの「コンテンツ」から、それぞれのページにあわせたデータを収集し、ページを構築する。これこそが、CMSの利点。
■CMSとは「コンテンツを一元管理する」という考え方
僕もWeb業界にいた頃にCMSの失敗事例というのをいくつも見てきましたが、総じて言えるのはこの概念を理解できずに、「更新が楽になる」ということのみに魅力を感じて導入している企業でした(CMS担当ではなかったので、詳しい運用は把握してませんが)。
コンテンツの一元管理とは具体的にどういうことかというと、例えば下記のような場合です。
・製品開発部が持っている製品情報
・販売促進部が持っている販促情報
・デザイナが持っているデザイン情報
・サイト担当者が持っているWEBサイトの情報と管理タスク
上記のような、バラバラの情報をある製品の情報としてWEBサイトに反映しなければなりません。しかも、その情報の適用箇所はトップページの新製品情報から、キャンペーンページ、製品詳細ページと多岐にわたります。これを人間の手でやるとするならば、そのページごとに原稿(コンテンツ)を整理して、ページごとにデータを持たなければなりません。しかし、CMSがあれば、各部署やタスク担当者が、サイトの複雑な構造を気にすることなく、自身に用意された入力スペースに「製品仕様」や「販促スケジュール」をその場で入力するだけで、それらがある一つの製品の情報DBとして管理されます。そのDBをから、必要な情報のみを抜き出し、各ページを自動生成できる。これこそが「コンテンツの一元管理」でありCMSのできることのはずです。
■CMS最大の利点はユーザニーズに応える質と速度の向上
そして、これによる最大の利点は、ユーザが求める情報をすばやく適確に提供することができる、ということでしょう。人間の手でコンテンツ管理をしていれば、多量な時間がかかります。しかし、それを複数の部署の人間が同時に情報を入力しDBとして管理すれば、新鮮な情報が即座にユーザへ届きます。
新鮮な情報というとしっくり来ないかもしれませんが、一番わかりやすいのが各店舗の在庫表示でしょう。これを企業の広報担当が一手に引き受けていれば、それを入力しているだけで1日が終わります。しかし、各店舗の管理担当それぞれが自店の在庫情報を逐一入力し、それがDBとして管理され、WEBサイトの各ページに反映されるシステムがあれば、簡単にそれが実現します。ユーザがそれぞれ置かれている状態に適した情報を即座に適確に提供できる。1to1マーケティングなんていいますが。
■WEBサイトで何をなし得たいのか
結局、CMSを導入するにしてもしないにしても、同じこと。
そのWEBサイトでユーザにどんな満足体験を提供したいのか。
CMSの導入にはこれがより一層明確になっている必要があります。
なぜなら、それをもとにコンテンツの一元管理を行うから。
一元管理するといっても、それぞれの情報を、どこの誰が入力するのか。
はたまた、その「情報」の大きさはどの程度なのか。
細かい話をすれば「価格」と「品番」と「型番」は別々の情報とするのか。
「製品情報」としてまとめて管理するのか。
これは、どちらもありえます。どのようにページに反映するか、
運用するかによって変わりますから。アセット、なんて呼び方をしますが。
これをしっかり決めないと、もしくは適当に決めてしまうと、いざ運用となった時に機能しません。そりゃあそうでしょう。はじめにそれを適当に決めてしまって、運用してみたら「ココとココの情報は別々の人間が入力するのに・・・」とか「こんなに細かくしてもどうせ一人で入力するものなのに、手間ばかり増える・・・・」ということが起きますから。
■CMSって大変・・・・
そうそう。大変なのです。
一個一個ルールを決めてつくっていかなければなりませんから。
その上、承認ルートや、CMSツールを使うユーザ=社内担当のことも考えてつくらなければなりませんから。
それをせずに「更新が楽になる」ということのみに主眼を置いて設計・導入をするから、運用しだすと、実は余計に手間が増えその割には効果が発揮されないという状態に陥り、眠ってしまうCMSの事例が山ほどあるわけです。(いくつ見てきたか・・・)
■高額な自動ツールの導入なのだから・・・
例えば、自社業務のためにオーダーメイドの自動車を買うようなものなのです。
それを「移動が楽になるから」という理由だけで営業担当全員に買い与えていたら、全く効果は出ないでしょう。大事なことは「移動を短縮化して、その先で何をするのか」のはずです。
例えば、社員を遠くの駅から自社へ移動させるためのものなのに、一人一人に社用車を与えても意味がない。それなら、大型バス一台でもレンタルしたほうが安い。
例えば、作業員が大量のものを運びたいのに、普通のセダンを購入していては結局意味がない。
営業担当がクライアントへ行くだけなのに、フルチューニングされたスポーツカーを購入してもムダでしょう。
仮に各クライアントへ営業担当がスムーズに制約無く移動できることが実現したとして、それでどうなるのか。移動がスムーズになるのは自動車の利点です。しかし、それで留まっていては意味がない。スムーズになり、時間が短縮されたなら、その生まれた余裕を何に使うのか。どうやってクライアントに還元するのか。それこそが「営業車購入の目的」でなければならないはず。
■CMSとて同じこと
大事なことは、更新の自動化ではないはずです。
コンテンツの一元管理により情報の即時性、タスクの負荷が経るならば、それをどのようにユーザに還元するのか。それを明確にしないと、大金をドブに捨てるようなもの。
WEBサイトでどんな満足体験を与えたいのか。
そのためのペルソナ/シナリオ法であり、HCDプロセスですから。
WEBサイトそのものの目的を明確にし、CMSの導入にも必要となってくることだと思います。
結局、失敗しない成果の出るCMSの導入にも、しっかりとした計画性、HCD/UCDプロセスを重んじる情報デザインが必要なんじゃないでしょうか。